先週1週間、コウジさんは夏休みでした。
毎年夏休みは実家の深谷市へ帰るのが恒例なのですが、今年は義母の都合が悪くて帰省できず、毎日家でテレビを見ているコウジさん(囲碁をすればいいのですが、私がお尻を叩かないとしませんし、私はあれこれ用事が忙しくて囲碁をできない日が多いのです)。どこかへ2人で1泊旅行でもしたいものですが、ウメの散歩があるのでそれもできません。9年ほど前、1度だけウメを今は亡きブリーダーさんちに預けて1泊旅行したところ、ウメは飲まず食わず、オシッコもせずだったので、それ以降旅行は諦めました。

でもテレビに暴言を吐いては寝る日々のコウジさんを見かねた私は、ふと思いついて「はとバスの日帰りツアーでも行ってみる?」と聞いてみました。するとコウジさんは、「いいかも!行く行く!」と乗り気に。
そこでコウジさんが好きな温泉が入ったコースを探し、昇仙峡と松茸料理と温泉、巨峰狩りができる1万円のツアーを見つけました。翌日のものは催行中止だったので、2日後の出発のものに申し込めました。

ところでコウジさんが1人で行動する時に一番心配なのは、記憶障害です。休憩や1つ1つの目的地に着いてバスを降りると、自分のバスがわからなくなる可能性が高いです。自分も困ると同時に、ほかのツアー客の皆さんに迷惑をかけても大変。

そこではとバス予約センターの 「特別な配慮を必要とされる方へ」 というところにコウジさんの名前でメールして、自分は14年前にくも膜下出血を起こしてその後遺症である高次脳機能障害を負っていること、特に記憶障害が強いので、自分のバスがわからなくなるかもしれないこと、ウロウロしていたらお声かけしてほしいことをお願いしました。 (はとバス会社にも、高次脳機能障害を知っておいてほしいという気持ちがあり。)

すると「かしこまりました。」とお返事があり、当日のガイドさんと添乗員さんに伝えてくれるとのことで、安心しました。有難い!あとは集合場所の新宿駅西口のはとバス乗り場まで無事辿り着けば、なんとかなるでしょう。かわいい子には旅をさせよ。子どもを崖から落とす獅子のような心境でした。頑張れ、コウジさん。楽しんで、成長して、無事に戻って来て・・・。

さて、申し込んだ日は喜んでいたコウジさん、翌日は早くも不安そうになってきました。そのたびに「ガイドさんと添乗員さんにはあなたの障害のことを伝えてあるから、大丈夫!」「温泉だよ。ゆっくりリフレッシュしておいでよ。」「松茸とすき焼きだよ。」「巨峰食べ放題だよ」「昇仙峡の自然美だよ」と盛り上げる私。本当は私が行きたいくらいです(笑)。
ワッチにも、「パパは明日、1人ではとバスツアーに参加してくるんだよ。」と教えると、びっくりした顔で「へえ!何泊?」と聞きます。「え?日帰りだよ。」と答えると、プッと吹き出すワッチ。「あ、バカにして。日帰りだって大挑戦なんだよ。ねえ?」「そうだよ。」とコウジさんと2人で胸を張りました。

必要事項を記入したヘルプカードを持たせたり、コウジさんの携帯電話(ガラケー)での写真の撮り方を教えたり、集合場所への地図や案内写真を持たせたりして、いざ出発。いつでも電話くれるよう頼んでおくと、まず最寄駅に着いた、と電話が(笑)。乗換駅に着いた。新宿の集合場所に着いた・・・など、囲碁教室にいる私、そのあとスーパーで買い物している私に、どんどん電話が入ります。順調、順調♪

でも、「今おそば食べている。」という電話が入った時はびっくりし、私は「なんで?おそばなんて行程表に書いてなかったけど。松茸ご飯は?」と不思議に思って聞きました。コウジさんは、「松茸ご飯?これから!」と返事します(いい加減)。なので、行程表にはないけれど、わんこそばみたいな小さなお椀で食べるものも、予定に入っていたのかな、と無理に納得しました。
けれど、実は松茸料理のことを忘れ、おなかがすいたので休憩時間に目にしたとろろそばを注文し、食べてしまったそうです。そのあとに松茸料理のお店に着いたので、(しまった!松茸料理を忘れていた!)と後悔したコウジさん。既におなかいっぱいだった彼は、無理やり食べたとのこと。ああ、勿体ない。
誰かと一緒に行動していたら、そんな松茸料理の前におそばを食べるなんてことはなかったでしょうが、仕方ないです。

添乗員さんやガイドさんはコウジさんのことを気遣ってくれ、キョロキョロしていると、「今、何をされていますか?」とすぐ聞きに来て下さったそう。「あ・・・、バスがわからなくて・・・」と言うと、「あのバスですよ。」と教えてくれたそうです。有難うございました。

帰ってきたコウジさんが、玄関のドアを開けるなり、「今日、どこへ行ってきたんだっけ。ずっと考えながら帰ってきただけど、わからない。」と言うのは、いつものこと。天候に恵まれ、昇仙峡観光も温泉も巨峰狩りも満喫して、お土産に小さな松茸3本ももらい、嬉しげな表情なので、行ってもらって良かったです。

それにその日から、ちょっとコウジさんの頭が冴えている気がします。テレビのクイズ番組も、難しい問題を答えられ、ワッチ(娘)は尊敬の眼差しで父親を見ていました。「旅は最大のリハビリ」と聞きますが、本当にそうかもしれません。

ツアー参加者は、グループや家族がほとんどで、コウジさんは1人でちょっと寂しかったそうですが(ほかにも1人の人はいたそうです)、1人で行ったからこそ、私や誰かに頼ることなく一所懸命考え、頭の体操になった、とコウジさん本人が言っています。

コウジさんのお土産の松茸で、お吸い物やホイル焼きを作りました。一足先に秋を賞味しながら、「また行くといいね。」「そうだね。」と言い合っています。(でも今度はやっぱり誰かと行きたいそうです。)

ガラケーで撮影した写真は、「保存」を押さなかったので(やっぱりネ)、何もないのが残念ですが、コウジさんの頭と心には、きっと楽しい思い出が残っているはずです。はとバス様、有難うございました。

最後に、お知らせです。

私のブログでもちょくちょく登場して頂いている、視覚障碍(全盲)をお持ちの囲碁アマ4段の腕前を持つ柿島光晴さん。明日30日の夕方6時~6時半(予定)、内田洋行という会社の情報テレビ、UCHIDAーTV に出演されるそうです。

「障害者囲碁 世界最強のユニバーサルゲーム」 https://freshlive.tv/uchida-tv/140411
ほかの出演者は、内田洋行の上田和俊さんと、木谷正道さんらです。
是非ご覧になって下さい。