『18歳のビッグバン』の著者、小林春彦さんがクラウドファンディングに挑戦されています。

https://readyfor.jp/projects/kobayashi-haruhiko

「題して『小林春彦、18歳のビッグバン全国行脚講演ファイナル』。長らく続けてきた講演活動に"一旦"ピリオドを打つにあたり、日本列島を約一年かけて回り切る講演会を開催する(いずれの会場も入場無料で自主開催を予定)というものです。」(小林さんのHPから抜粋)

小林さんの御本を読まれた方も多いのでは、と思いますし、お名前くらいは皆さんご存知でしょう。
18歳の時に広範囲脳梗塞に倒れ、高次脳機能障害となった方です。 ご著書を拝読した時、正直、(こんなに記憶力がおありで、理路整然とした文章を書け、感情も落ち着いた、しかも強力な発信力を備えられた頭の冴えた高次脳機能障害の方っているんだ。)と驚きましたが、それは、この障害を負った方というのは、私の夫のように「重い記憶障害」「感情失禁」「意欲の減退」「幼稚化」というものが主だった症状だという、いわば少々偏ったともいえる思い込みが私にあったせいです(実際、そういう症状を抱えた当事者の方が多いとは思いますが)。

小林さんのようなタイプの当事者の方を知らなかった私は、小林さんの登場にびっくり、衝撃を受けました。でも、高次脳機能障害者は100人いれば100通りといわれていますので、色々な方がいて当たり前なんですよね。

余談になりますが、夫の場合、それに加えて「保続」「作話」「遂行機能障害」「地誌的障害」「注意障害」などが依然としてあり、一言で言えば、見た目は大人、中身は大人と幼稚園児が合わさった不思議ちゃん、という感じでしょうか。 

・・・ここで大事なのは、昔は幼稚園児だけでしたが、だんだん「大人」の部分が見え隠れし出していることです。時々、(え?)と思うような、かつての元気だった頃の夫のような発言や考え方が出てくることがあり、そういう時私は思わず「すごいすごい!」と拍手してしまいます。 でもその1分後には夫はまた幼稚園児に戻り、私や娘(ワッチ)はがっくりしたり怒ったりするのが常です。

ただ、そういう場面が増えてきているのも事実です。
だから、この障害が「良くなる障害」「期待できる障害」といわれるのも頷けます。私も、(もしコウジさんの寿命が200年あったら、元に戻れるかなあ。)、なんて思うこともあります。・・・いやいや、やっぱりそんな保証はなく、完全にかつての夫と同じ人物になることはありえないんでしょうね。

けれど逆に元の夫がそんなにいい人だったかというと、そこは疑問で(笑)、今の方がよっぽど純粋(子ども)でいい人間になっている面もあるんです。 よく、「あのままだったらいつかは離婚していたと思うけど、障害を負ったら嫌だった部分が消えて新しい夫になり、仲良くなれた。」という声を聞きます。コウジさんもそうかも!(笑)
もちろん、障害を負ったことで嫌な部分が新しく出てきたけど、それは障害ゆえだからと思うと、受け入れられるのです。「怪我の功名」「障害有難う!」という面はたしかにあるようです。
(こう書いている私だって、夫にとっては嫌なところいっぱいだと思いますが。苦笑。)

繰り返しますが、この障害は100人いれば100通りなので、記憶障害がない方、紳士的な方、意欲旺盛な方もいらっしゃいます。夫にはない症状、「失語症」「失認症」「半側空間無視」「半側身体失認」がある方もいらして、それだけの方もいらっしゃいます。
小林さんは、「半側空間無視」と、ちょっとだけ相貌失認があるのかもしれない。そんな方なのかな。

とにかくその小林さんが、最近まで色々お考えになった結果、来年1年を無料で講演して回り、そこで一旦講演活動はやめ、渡米してアメリカの障害者を取り巻く環境や、アメリカ人の考え方を学んでくることを決意されたそうです。

再度HPから抜粋しますと、「時代が進み、障害者の周辺事情も変化しています。私は意見発信者として、より現代に即した視点や思想を持たねばならない。常に社会的価値のあるものを発信しなければならない。未来に向けて見識を蓄積し、発想を磨く必要がある。そのためには異文化やヒトと触れあう感動体験や言葉を紡ぐ一人の時間が不足している、そのように思うようになった」のだそうで、

「東京オリンピックパラリンピックが終われば日本を飛び出し海外の大学に留学して、最先端の障害者研究や多様な価値観を学び、日本に持ち込みたい」とのこと。

講演先は離島など遠隔地を優先し、これまで講演に来たくても来られなかった方たちに話されるとのこと。そのためには交通費がかかるので、その費用の支援を呼びかけていらっしゃるんです。

以前、交通費の片道分が自己負担になるため、お金を節約しようとした小林さんは夜行バスに長時間(13時間!)無理して乗ったら、左麻痺のお体ですから、「麻痺・硬直・痛み」が出てつらかったとのこと。さらに宿泊もやはりお金を節約するために、マンガ喫茶にしたそうです。

それでは肝心の目的である講演されるパワーが減ってしまうでしょうし、このような移動の仕方は心配ですしあまりにもお気の毒です(涙)。なのに、待っている人たちがいる、という使命感と情熱に押され、今まで東奔西走されてきた小林さんに、せめて新幹線や飛行機に乗せてあげたいという気持ちになります。

情報がなかなか届かないところにお住まいの当事者や御家族にとって、今回の小林さんのクラウド・ファンディング、とても嬉しいことではないでしょうか。

私も思っていることですが、情報が届くところには、届き過ぎるほど届いているけれど、届かない人には全く届いていない。それは問題です。特にネットを使わない人たちにとっては、このブログだってそう、各地の家族会や講演会、支援情報などなにも届いていない可能性があります。だから、テレビや新聞、広報誌の役割と効果に今一度着目し、それを有効活用すべきだと考えます。

(そういえば、昨日NHKで午後6時52分ころ、「千葉で高次脳機能障害者や家族が、歌によって交流を深めました。」というニュースを見ました。良かったですね。そしてこういう風に、この障害に関するニュースがちょくちょく頻繁に出る社会になって欲しいです。)

情報が届いていないところに自ら出かけて行かれる若き当事者、小林さんを応援したいと思います。
小林さんの決断力、行動力は、元々お持ちだった小林さんの素晴らしい長所だと思いますが、まだ32歳という若さですから、是非世界へ飛び立ち、さらに大きくなって戻ってきて欲しいです。

これからは、私のような当事者家族ではなく、当事者ご本人の発信が求められる時代です。私が本を書いた頃は、家族が発信していて、当事者本人はあまり発言されていませんでした。もっとも、夫のように「病識がない」=「問題意識がない」当事者の方が多く、発信することは難しいからです。

けれど小林さんや、鈴木大介さん、未来の会の市川剛さん、素晴らしいパワーポイント資料を作られ講演される島津渡さん(お2人はコウジ村村民です)、東大阪の「え~わの会」の方々など、発信される当事者が増えてきて、嬉しい限りです。これからも是非どんどん発言を続けて下さり、私達家族や支援者、一般の人に当事者のお声を聞かせてください。そして社会にこの高次脳機能障害への理解をもっともっと広めて下さるよう、お願いします。

小林さん、頑張って下さいね。
そして今これをお読みの皆さんが、少しでも小林さんの夢にお力を貸して下さると嬉しいです。
宜しくお願いします。