マスクをしていて残念なのは、この時期どこからともなく漂ってくるはずの、梅の花の上品な香りがわからないことです。だからウメと歩いていると、いきなり目の前に現れた梅に驚き、周りに人がいないことを確認してからマスクをずらして、梅の花の香りをかいでいるんですよ。
それに、ふと視線を落とすと、沈丁花もつぼみをつけていて、ああ、またそんな季節が来たんだ、と感慨を覚える一方、この強い芳香を放つ花の匂いだけは、この春絶対かぎ逃さないようにしなくちゃ(変な言葉ですが)、と思うのです。
春の沈丁花、秋の金木犀はいい匂いを漂わす2大花で、大好きです。

また、春自体、春の匂いがしますよね。柔らかなお日様の匂いというか、草木のみずみずしい新芽の匂いというか。来月下旬には開花するであろう、桜のかすかな匂いだって貴重です。 なのに、いつもマスクの不織布の匂いばかりかいで、味気ないったら。

さて今日は、峠の釜めし事件の話をします。
これは、「コウジさんは障害を持っているので仕方なくて、悪いのは私でした。」、という結論の話です。

まず初めに、私は群馬県横川駅前にある荻野屋の「峠の釜めし」が大好きです。
でも旅もしないし出不精な私が滅多に食べられるものではなく、今までは時々近所の大型スーパーで催される、「全国駅弁大会」というような場で買っていました。が、ここ数年なぜかそういう催しでも、峠の釜めしの姿は見当たりません。

ところで、東京駅構内には、「駅弁屋 祭」という全国から届けられる駅弁を販売しているコーナーがあるんです。(ほかにも都内で販売しているところはあるようです。)コウジさんの会社が数年前、東京駅そばに移転してからは、コウジさんに買ってきてくれるよう頼みたいのは山々でしたが、頼めませんでした。なぜならコウジさんは広い東京駅構内できっと迷いますし、疲れやすいので探し疲れて体力消耗し、翌日会社へ行けなくなりそうですからね。

でも、去年3月から巣篭りを始めている私は、外食はほとんど皆無なので、(たまには、変わった美味しいもの食べたいなあ)、と思うようになりました。そこで3週間ほど前、思い切ってコウジさんに「峠の釜めしを、退社後買って来てくれる?」と頼んでみたのです。もしたとえそのコーナーに辿りつけなくても、そんなこと想定内ということで、「見つからなかったらいいからね、絶対無理はしないでね。」と念を押して。

少し不安そうなコウジさんでしたが、「いいよ、買ってくる!ママちゃんが好きなものだからね。」と言ってくれました。優しいコウジさんです。
そしてコウジさんは駅員さんに聞きながら(私の書いた地図ではわからなかったようで)、「駅弁屋 祭」に着いたそうです! やった~! ただ残念なことには、峠の釜めしは売り切れだったそうです。美味しいものね、人気商品だからすぐなくなっちゃうのでしょう。がっかりしましたが、仕方ないので、「そう、残念。でもわざわざ行ってくれて有難う。」とお礼を言いました。

けれど、買えなかったことがコウジさんの闘争心に火をつけたようで、翌日コウジさんは昼休みに頑張って「駅弁屋 祭」に行き、私とコウジさんの2つ分、峠の釜めしをゲットしたのです。まさか行くとは思わなかったので、「買えたよ!」とお昼休みの時間帯に、息を弾ませて私に電話をかけてきたコウジさんに驚きました。 

私も峠の釜めしをその晩食べられる嬉しさもさることながら、コウジさんの優しさ、コウジさんが道を覚えられたことへの喜びに、電話のこっちで飛び跳ねました(笑)。
その晩、2人でおいしく峠の釜めしを頂きました。そして峠の釜めしの写真を取り、その日夕食が不要だったワッチにラインで送ったところ、「わしも久しぶりに食べたい。」というワッチからの返事が・・・ それが事件の始まりになったのでした(涙)。

年に1度くらいしか食べられない峠の釜めしですが、2日続けて食べるのも有り難くなく、1日おいた翌々日にまたコウジさんは鼻息荒く出勤していきました。かわいい娘ワッチのためとあらば、なんとしても買ってくると。 私は食べたばかりだから余り食べたくなかったですけど、仕方ありません。「宜しくね。悪いね。」、と送り出したのでした。一昨日行けたのだから、まさか迷うなんて、思いもしませんでした。

お昼前、コウジさんの上司から電話が入りました。上司から電話がかかってくることは滅多にありませんから、(コウジさんの身になにか?)と血の気が引きました。けれど上司が仰るには、コウジさんが10時半に会社を出て行ったきり、戻ってこないので心配している、ということでした。奥様に連絡入っていませんか?携帯に何度電話しても出ないのです、と。(携帯はコウジさんのロッカー内のカバンの中だったことが、あとでわかりました。)

ええ~?10時半?なぜにそんな早い時間に?峠の釜めしを買いに行ったのは想像できますが、横川から来るのだから、そんな早く届いていないかもしれないし、第一お昼休みに行く話じゃなかったの?

上司には、かくかくしかじかで、夫は峠の釜めしを買いに行ったのだと思うこと、そんなに帰ってこないのだとすると、きっと帰りに早いお昼ご飯も食べてきてしまっているのだと思うこと、申し訳ありません、と謝りました。上司もコウジさんがお弁当を買いに行ったことはご存知で、「時間休」という制度があるので、それを使えばいいこと、コウジさんが会社に戻ってきたら私に電話を入れさせます、とのことでした。

そして12時半か13時だったか、コウジさんから電話が入りました。
「迷っちゃったよ。」「お昼ご飯?食べてないよ。」「釜めし買えたからね!じゃあね!」と疲労困憊したような彼の声のむこうに、「どこ行っちゃったのかと思ったよ。」と心配する同僚の方の声も聞こえましたが、コウジさんは電話を切ってしまいましたので、そのあとの様子はわかりませんでした。

上司とコウジさんの話を総合すると、以下のようなことだったようです。
コウジさんは、ワッチに峠の釜めしを食べさせたくて、お昼でも既に売り切れているかもしれないと心配になり、上司に一言断って、10時半に買いに出たそうです。コウジさんも上司も、15分くらいで帰ってこられると思っていたようです。 けれどコウジさんは、場所を忘れ、駅構内に行かなくてはいけないのに、駅の外に出てしまったそうです。寒い中、コートはおろか、上着も着ずにただワイシャツだけで。しかもネームプレートを首からぶらさげたままで。

外を歩いてもちっとも場所を思い出さず、そこでコウジさんは、はっと気づいたそうです。(そうだ、駅の構内だった!)と。 
けれど今自分がどこにいるかもわからず、迷いに迷っているうちに、交番を見つけたそうです。そしてそこでおまわりさんに、会社の入っているビルの名前(よく覚えていました!)を告げ、道を教えてもらい、一旦そのビルまで戻ってきたとのこと。

そしてそこから再スタート、今度は無事駅構内に入って「駅弁屋 祭」のコーナーにも辿りついて(本当なら定期を持っていれば駅構内に入れるのに、定期も携帯も持って行かなかったものだから、入場券を払って構内に入ったそうです)、無事3つの峠の釜めしを買えたとのこと。

そして会社を出てから2時間後の12時半に、ヨロヨロと会社に戻ったそうです。
何も食べず、寒い中ワイシャツで歩き回ったコウジさん、可哀想というか、滑稽というか、いえやっぱり可哀想で、風邪ひかないか心配でした。それより会社からフラフラ出歩いて、皆にご心配とご迷惑をおかけしたことを申し訳なく思いました。(コウジさんは、夜は峠の釜めしだから、お昼は軽くしようと思い、朝出勤途中にコンビニで大きなおにぎり1個を買っていたそうで、それを12時半に食べたそうです。)

メールで上司の方に、私が峠の釜めしが好きなばかりにこんなことになったこと、もう迷わないでお店へ行けるだろう、と過信してしまった私が悪いこと、娘かわいさに夫が無茶をしてしまったのだろうことを説明、謝罪しました。

上司の方からは、コウジさんは2時間外にいたので、お昼休みの1時間からオーバーした1時間には、時間休を使ってもらうことと、今回はほほえましい件として受け取ったので、今夜は娘さんと3人で峠の釜めしを美味しく食べてください、という優しいお返事を下さいました。

ああ、猛省です。
コウジさんが迷わないと思ったこと、まさか売り切れが心配なあまり10時半に会社を出るとは思わなかったことなど、すべて私のコウジさんへの過信や誤った判断から生じたものであり、コウジさんの取るだろう行動を16年もそばにいて予測できなかった情けなさに、うちひしがれました。

障害があるのに私とワッチのために一所懸命買おうと努力してくれたコウジさんは悪くなくて(それどころか、有り難くて)、のんびり考えていた私が悪かったのは明白です。

ごめんね、コウジさん。、
コウジさんが疲れて倒れなくて良かった、風邪ひかなくて良かった、です。

・・・夜食べた峠の釜飯は、ほろ苦い味がしました。
峠の釜飯

↑ 峠の釜めし。今は陶器でなく軽いパルプ素材の器も出ているんですよ。漬物もおいしいですよ。私はごぼうやワサビ漬けが特に好きです。

もうコウジさんに峠の釜めしを頼むのは、やめました。
だからまた数年、食べられないなあ。
私が東京駅を通ることがあり、その時に峠の釜めしが売り切れになっていない限りは・・・

はは、どれだけ私は峠の釜めしが好きなんでしょう! 我ながらおかしくて笑ってしまいます。

ではまた!

尚、「コウジさんは障害を持っているので仕方なくて、悪いのは私でした。」の「その2」も書きますね。